【型打ち】
ダイヤルの表面加工の一つで、
ダイヤルの表面に
凹凸模様を施す仕上げのこと。
目付けの仕上げ加工を
組み合わせることで、
多彩な表現を生み出す。
松本 卓也 まつもと たくや
2010年、セイコーウオッチ入社。現在はキングセイコーとグランドセイコーのデザインを担当している。
私にとって「型打ち」とは。
金属板の表面に型を押し当てることで、微細な模様表現ができる素晴らしい技術が「型打ち」です。その模様の深さは、約100分の1mm単位でコントロールされています。この凹凸模様により、腕時計の顔となるダイヤルに豊かな表情を与えることができるのです。そんな型打ちを、私は「極小の立体芸術」と捉えています。
繊細な彫刻が美しい、
イスラム建築に憧れて。
ちょっと個人的な話ですが、私、イスラム建築が好きなんですね。特にスペインの「アルハンブラ宮殿」に強い憧れがあります。まだ訪れたことはないですが、旅行雑誌で目にしたときの衝撃が忘れられなくて。建築に施された精緻な幾何学模様、そして自然をモチーフとした美しい彫刻。それはもう、完璧な美しさです。
そんな芸術的な立体表現を腕時計の製作のなかで行えるのが、他でもない「型打ち」なんです。それに気づいたとき、この技術の魅力を再発見した気がしました。建築にも見られる、光と影が織りなす美しい陰影模様。それを、ダイヤル上の限られた空間でどう展開できるか。この「極小の立体芸術」に、今回はとことんこだわってみることにしました。
表現したのは、
日本の四季の移ろい。
実は「アラベスクパターン」という社内用語があります。それはイスラム美術に由来し、腕時計のダイヤルを美しく魅せるための、幾何学的な連続模様で構成された装飾の総称です。私の型打ち愛のルーツとも重なるその模様を使って、日本の暮らしの中で目にする自然の情景を表現したいと考えました。
型打ち模様のテーマは「生々流転」。変化し続ける時の流れを、刻々と移り変わる四季と花々で表現。
12時-3時:春の陽光を浴びて光る川。
3時-6時:夏の照りつける太陽。
6時-9時:秋の夜空に輝く星空。
9時-12時:冬空に舞う雪の結晶。
光の具合によって型打ち模様の見え方も変化。円周状にレイアウトされた12種類の花は、花弁が数字で構成されている。その書体のベースとなっているのは、1924年に初めてセイコーの名を冠して発売された腕時計で使われた数字だ。
型打ちのモチーフである植物をイメージした、腕に巻きつくような重ね巻きのベルトデザイン。「この腕時計にあの服をコーディネートしてみたい、と想像を膨らませてもらえると嬉しいです」(松本)