【棒略字】
ダイヤル上にある
棒状の目盛りのこと。
特に植え略字になると、
ダイヤカットや虹挽き(筋目加工)
などの組み合わせで、
金属の反射表現が無限に広がる。
和田 実穂 わだ みほ
1989年、セイコー電子工業(現・セイコーインスツル)入社。現在はセイコーウオッチに所属し、クレドールのデザインディレクターとして、日本のものづくりに携わっている。
私にとって「棒略字」とは。
腕時計のダイヤル上に配置された、時刻を読み取るための指標となる棒状の金属パーツ。それが「棒略字」です。簡略化された数字の姿であり、単なる省略にとどまらない時計固有のデザイン要素として独自の進化を遂げた重要な部品。私の中でそれは、不思議な魅力を放つ「光の魔力」そのものなのです。
甲虫の光に魅せられた、
幼少期。
私が棒略字の光に強く惹きつけられるのは、子どもの頃の記憶が関係している気がします。虫かごを片手に、野山で宝探しに明け暮れていた当時、タマムシやコガネムシを捕まえては、そのメタリックな光に子どもながらに魅了されていました。今も潜在的に持っている“光への憧れ”は、そのとき形成されていったのかもしれません。
虫と違って、略字はそのほとんどがカバーガラスに守られていて触れることが難しいのも、より憧れを誘うのかもしれません。その憧れが、最近、社外のアーティストと関わったことでさらに強まりました。私たちとは違う新鮮な視点に、棒略字の魅力を再認識させられたのです。研ぎ澄まされた鏡面。鋭いエッジ。その輝きは金属ならではの艶を放つことで腕時計に不思議な力を宿らせ、もはや光の魅力を超えた「光の魔力」です。
この光の魔力を、
最大化してみたい。
挑戦したのは、ダイヤルすべてを棒略字で埋め尽くすこと。ほとんど「執着」に近いですが、いつもは控えめな輝きを放つ棒略字の可能性を、最大限に引き出したいと考えました。一本一本、丹念に磨き抜かれた光が響き合い、壮麗な輝きとなって放たれる、その静かな力強さと大胆な美しさをお楽しみください。
ダイヤル上に敷き詰められた棒略字のパーツは23種、その数なんと37本。「色々な種類の光をランダムに楽しんでもらいたいと思いつつ、略字の種類をどこまで増やすか…という葛藤があり、何が正解か分からなくなる瞬間もありました」(和田氏)
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すこし傾けるだけでも一瞬にして明暗が反転し、見るものを飽きさせない。「常に異なる表情を見せてくれるこの腕時計を、光を味わうように愛でて欲しいと思います」(和田氏)
光の反射により、針の裏側が棒略字にくっきりと映り込む。その性質を利用し、針の裏面に配色された赤が情熱の象徴として現れる仕掛けが施されている。